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横浜地方裁判所 昭和27年(ヨ)463号 決定 1952年10月06日

申請人 小久保栄三郎 外二名

被申請人 神奈川県知事 内山岩太郎

主文

本件申請はこれを却下する。

理由

本件申請の要旨は

(一)  申請人小久保は昭和二十五年九月二十一日被申請人に雇入れられ横須賀米海軍基地内フアイヤー・デパートメント(YF)に勤務する駐留軍労務者であり、申請人山口は昭和二十五年九月一日被申請人に雇入れられ、横須賀米海軍基地内フアシリテイース(YD)に勤務する駐留軍労務者であり、申請人組合は横須賀米海軍基地内に勤務する駐留軍労務者を以て組織する労働組合であつて全駐留軍労働組合の単位組合である。また申請人小久保、山口はいづれも申請組合の組合員である。

(二)  ところが、被申請人は昭和二十七年七月二十五日申請人小久保を同年八月二十三日、同山口をそれぞれ解雇したのであるが、右解雇は前記全駐留軍労働組合の前身である全国進駐軍労働組合同盟と調達庁の前身である特別調達庁との間に締結せられた昭和二十五年一月二十七日の労働協約に違反し、労働協議会の協議により決定せられたものでないのみならず、相当の理由なくしてなされたものであるから無効である。

(三)  しかして本件解雇は被申請人が調達庁設置法第十条に基づき、調達庁官より駐留軍労務者の雇傭、解雇等に関する事務の委任を受け、国家機関として行つたものであるが、都道府県知事は国家事務を管理執行する場合においても、自治団体の機関たることを本質とする関係上、国家行政組織法第十五条、地方自治法第四十六条によるも明かなように、一般の国家機関と異なり、独立の地位を有するものであるから、その国家機関として執行した事項については、訴訟を追行する権限を有するものである。

(四)  よつて申請人等は被申請人に対し、前記解雇の無効確認訴訟を提起せんとする者であるが、申請人小久保、山口が本案判決確定まで賃金の支払を受けないときは、本人および家族の生命の危険を感じ、またかかる解雇は申請組合の組合員の志気に与へる影響甚大であるから、前記解雇の効力停止、仮りに賃金の支払を求めるため、本件仮処分申請に及んだというのである。

被申請人神奈川県知事内山岩太郎が本件申請につき、被申請人たる適格を有するや否やにつき判断する。都道府県知事は調達庁設置法第十条に基づき、調達庁長官より、駐留軍労務者の雇傭、解雇等に関する事務の委任を受け、国家機関としてその事務を執行する場合においては、その効果は一に国家に帰属すべきものであつて、その法律関係に関する訴訟につき、都道府県知事に、特にその訴訟を担任せしめる旨の規定はない。申請人等は国家行政組織法第十五条地方自治法第百四十六条等を根拠として、都道府県知事に右訴訟を担任する権限ありと主張するけれども、右規定は都道府県知事が国家機関としてその事務を管理執行する場合において、時に主務大臣の命令が地方自治の本旨に違反することありうべく、この場合に主務大臣が自己の判断に基づき一方的にその命令を強制しうるものとすることは、地方自治を尊重する所以にあらざるものと認め、その間裁判所をして黒白を決定せしめ、この判断を待つて初めて各種の処置をとりうるものとした規定であつて、これ等の規定によつては国家機関としての都道府県知事に、その管掌事項つき訴訟を担任せしめたものと解することを得ない。

よつて、本件申請は、被申請人とすべからざるものを当事者として申立てたものであるから、その余の点につき、判断をまつまでもなく、不適法として、これを却下すべく、主文のとおり決定する。

(裁判官 牧野威天 森文治 荒木秀一)

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